2014年08月

 

大型ショッピングモールの進出による地元商店街のシャッター街化という現象は、日本だけでなく海外でも同様に起きている。そんな中、欧米では、地方の小さな店舗が集結してECを活用する事で、大型店舗に対抗する動きが出て来た。今回は、ニッチながらも業績を伸ばしている新たなローカル特化型ECの事例を紹介しよう。

 

ロンドンのホームデリバリーサービス、HUBBUB

 

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HUBBUBは、複数の小さな店舗の商品を顧客宅に配達するデリバリーサービスだ。「地元の商店から新鮮な食材を配達する」というコンセプトのもと、2010年に開始された。ロンドンの4地区がサービスエリアとなっており、顧客は自分が暮らす地区の商店の品物だけ購入できる。現在は、32店舗、約4,000品(魚介類や肉、野菜、チーズ、パン、ワインなど、食材)が取り扱われている。

 

HUBBUBの特徴は、受注や配送を各店舗に任せるのではなく、HUBBUBが全て担う点だ。HUBBUB側のコスト負担が大きいため、手数料は売上の50%となっている。安い手数料ではないが、各商店の売上は順調に伸びているため、店舗側の満足度は高い。顧客側にとっても、1軒1軒、自分でまわって購入する時間と労力を省けるため、双方に取ってメリットが大きい。今後は、サービス地域の拡大も計画しているそうだ。

 

NY、カリフォルニアの拠点配送サービス、Farmigo

 

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Farmigoは、20名ほどの共同購入者がコミュニティを作れば、48時間以内に地元で収穫した食材を配送してくれるサービスだ。現在は、ニューヨークとカリフォルニアで3,500以上のコミュニティが登録している。

 

Farmigoでは、とりわけコミュニティごとに専用ページを開設できる点がユニークだ。サイトデザインは自由に設定でき、ローンチ記念にイベントを企画する事も可能だ。専用ページでは、地元の商店や農家の品のみが取り扱われる。また、コミュニティの地域住民であれば、新たに参加が可能だ。一種のソーシャルコマースの場となっているのである。配送は、農家が行うため、Farmigoへ支払う手数料は販売額の10%のみで済む。

 

サンフランシスコのホーム&拠点配送サービス、Good Eggs

 

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Good Eggsは、地元の商店、農家の商品を、自宅や拠点に配送するサービスだ。果物、野菜、鮮魚、惣菜、パン、雑貨など商品の豊富さが特徴である。顧客は、ネットで注文して、サンフランシスコ内に設置された7カ所の拠点に取りにいくスタイルだ。配送料を払えば、自宅配送を選択する事もできる。現在は、ブルックリンとニューヨークで新たな供給業者との契約を進めており、他の都市にも展開する計画だ。

 

日本のローカル特化型ECは?

 

日本では、地方の農産物を全国に発送するオンラインショップは、最近よく見かけるようになった。四国のよんめぐや、和歌山の百姓家族等がその例だ。だが、欧米で出現しているような、地産地消を軸としたローカル特化型のECは、まだ事例が見られない。

 

地方で経営に苦しむ農家や商店が多いのは、日本も同じだ。また、安心・安全思考の高まりから、消費者の地産地消へのニーズは高い。今回見て来た3つの事例のような、ローカル特化型の農産物販売ECは日本でも適用できるはずだ。

 

まとめ

 

大型店舗が地方に進出すると、小さな商店は競争力が弱すぎて、太刀打ちできない。だが、複数店舗でローカルに特化したECを活用することで、受注や配送を効率化でき、地域密着型の店舗としての強みを活かす事が出来る。ネットを使いながらも地域を限定することで、新たな価値が生まれるのだ。

 

これは、八百屋に限らず、他のビジネスにおいても様々な可能性を秘めている。今後、日本でも、多様な分野でローカル特化型のECが増えるだろう。

 

最近、よく目にするようになったO2O (Online to Offline)の事例。本ブログでも、JOGINの事例を紹介した。消費者の移動時間を狙ってオンラインでプロモーションをかけ、リアル店舗(オフライン)に誘導するというものだ。

今回紹介したい事例はその逆パターン、 「Offline to Online」だ。英Tescoは、JOGINと同じく移動時間にフォーカスしながらも、地下鉄のホームというリアルな場にバーチャル店舗を作り、オンラインへ誘導するという斬新なアイディアを実行した。今回は、O2O事例で語り草となっている2011年のTescoの取り組みをもう一度検証してみよう。

 

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店舗増設なしに業界1位を狙うアイディア

 

Tescoは、世界第3位の売上を誇るイギリスの大手小売店だ。今回の事例の舞台となる韓国では、Home Plusという名前で展開している。韓国では、競合E-MARTにつぎ、業界第2位の規模である。E-MARTは、Tescoよりも店舗数が圧倒的に多い。Tescoは、多大なコストを要する店舗増設なしに、E-MARTに追いつく施策として、今回のO2Oのアイディアを考え出した。

 

地下鉄ホームをバーチャルスーパーに

 

Tescoが実施した取り組みとは、「地下鉄のホームを、バーチャルスーパーにする」という画期的なものだった。地下鉄のホームの壁に、スーパーの商品棚を写真にした巨大ポスターを掲示し、一つ一つの商品にQRコードを付けた。利用者は、購入したい商品のQRコードを携帯で読み取ることで、オンラインショップで買い物ができる仕組みだ。

 

サイト登録者、売上が大幅アップ!

 

駅のホームに突然現れたバーチャルショップは、地下鉄利用者の大きな注意を引き、2ヶ月で1万人をオンラインショップへと誘導した。最終的にTescoは、サイト登録者を76%、売上を130%アップさせた。さらに、コマーシャルがカンヌ国際広告祭2011でメディア部門グランプリを受賞するなど、プロモーションとしても大当たりを取った。

 

 

 

消費者の隙間時間を買い物時間にする

 

今回の事例のポイントは、実店舗にこだわらず、忙しい消費者の隙間時間、つまりホームでの待ち時間を、物理的体験を伴う買い物時間にシフトさせた点である。これまでのO2O事例では、オンラインから実店舗へ誘導するケースが多かったこともあり、Tescoが実施したバーチャルストア設置という新たな顧客体験の創出は、O2O事例の中で大きなインパクトを残した。

 

まとめ

 

今後は、Tescoの事例のように、オフラインからオンラインへ誘導する新たなO2Oの事例も増えていくだろう。特に、スマホユーザーの急増から、O2Oの中でもモバイルを活用した取り組みは、さらに重要になると思われる。

 

モバイル・コマースは、今後のEコマースのトレンドだ。 ついついOnline to Offlineに目がいきがちだが、その手法には今回のように、まだまだ多くのアイディアと可能性があるだろう。


アメリカの大手小売店、コストコメイシーズが、中国EC市場への参入を計画している。中国のEC市場は、成長率166%という驚くべきスピードで拡大しており、2015年には世界最大になると予想されている。今回は、この巨大マーケットに挑む2つの大手小売店について紹介しよう。

 

実店舗より先にECを展開

 

中国に進出した小売店と言えば、米国のベストバイホームデポが思い出される。だが、事情の異なる中国のマーケットで2社とも苦戦を強いられ、わずか数年で店舗事業を撤退している。

 

店舗事業が厳しいのは、中国国内の小売店も同様だ。中国では、景気悪化から消費が低迷し、小売市場の伸びが鈍化している。そのため、小売業界の店舗間競争が激化し、販売不振から閉店する小売店が相次いでいる。そんな中、中国進出を狙うコストコ、メイシーズは、リスク回避のために店舗事業を避け、まずはECに特化した事業展開を選択した。

 

パートナー企業を探すコストコ

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コストコは会員制の倉庫型ストアで、世界8カ国に600店舗を展開している。店舗のほとんどが郊外にあり、巨大な倉庫に豊富な商品を取り揃えていることから、遠出して楽しむテーマパークのような特性がある。そのユニークなスタイルが受け、日本や台湾では、爆発的な人気が出ている。

 

たが、中国でEC展開する場合は、店舗特有のテーマパーク性が出せない。先行する他のECとどう差別化を図るかが、重要な課題となってくる。コストコは現在、中国進出の要となるパートナー企業を探している段階だ。EC事業の明暗を大きく分ける、パートナー企業とのアライアンスの組み方に注目したい。

 

高級品ECのJiapinと組むメイシーズ

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メイシーズはアメリカを中心に、430店ほどの店舗を展開する百貨店である。コストコより準備が早く、既に中国の高級ディスカウントEC「Jiapin」をリニューアルし、販売店にすることが決定している。新しいサイトは今年の6月に公開される予定だ。

 

メイシーズは昨年6月にJiapinに出資しており、これまで着々と準備を進めて来た。EC展開後は、実店舗でのテスト販売も計画しており、ECと店舗販売を組み合わせたO2Oモデルに取り組む予定だ。

 

中国における小売業のEC事情

 

ところで、中国の小売業のEC市場は、モール型ECのTmallが44%、JD(旧360buy) が16%占有しており、ほぼ2社の独占状態となってしまっている。

 

Tmallは、提携企業からの直接販売や厳しい出店条件を設ける事で、偽造品を排除し、中流層の消費者から圧倒的な指示を得ている。一方でJDは、商品の海外配送や音楽ストアの立ち上げ等で着々と事業を拡大している。大手二社が占有するこの厳しいマーケットの中で、異国の小売店であるコストコやメイシーズがどの程度ユーザーを獲得できるかは未知数だ。

 

まとめ

 

中国のEC市場は急激に拡大している。だが、巨大ECモールの大手2社がほぼ独占しており、新規参入は慎重に行わなければならない状況だ。

 

実店舗の展開よりもEC展開の方が、遥かにリスクは低い。しかし、先行するマンモスECに立ち向かうには、徹底した差別化が必要だ。マーケットを絞り込みニッチ領域を狙うか、ブランドの開発に注力するか、等のポジショニングの明確化が求められてくる。コストコとメイシーズが中国のEC市場でどのように戦うのか、引き続き注意深く観察したい。

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4月1日、東急ハンズがハンドメイドECサイトの「ハンズ・ギャラリー・マーケット」をオープンした。オプトが運営していたECサイト「DAN-TE(ダンテ)」を買い取り、リニューアルしたものだ。今回は、小売大手の東急ハンズが挑む、これまでにないモデルのハンドメイドECを紹介する。

 

リアル店舗から生まれたハンドメイドECサイト

 

「ハンズ・ギャラリー・マーケット」は、プロ、アマ関係なくクリエイターのハンドメイド作品を取り扱うECサイトだ。アクセサリーやファッション、文具、インテリア、オブジェなど、多様なアイテムが取り揃えられている。

 

もともと東急ハンズは、渋谷店、熊本店に、ハンドメイド作品を展示・販売できるレンタルスペースを展開していたが、常に7、8割が埋まっている。この状況に加え、EtsyなどのハンドメイドECへの需要が国内外で高いことから、今回のオンラインショップを開設することとなった。

 

作り手と購入者、作り手同士の交流を図る仕掛け

 

「ハンズ・ギャラリー・マーケット」では、完成品を購入するだけでなく、カスタムオーダーも可能だ。購入者は、作り手と掲示板を通してコミュニケーションを取りながら、オリジナル商品を完成させられる。さらに、作家や作品への評価機能もついており、「お気に入り」の数が多い作家や作品を見つけやすくなっている。

 

また、作家は自分の作品を紹介するオリジナルページを作成することができる。作成した自分のページには、SNSを通じて友人を招待することもできる。招待した友人が会員登録をしたら、自動的に自分のファンとして登録される仕掛けだ。この機能により、イベントや展示会で名刺交換した人を作家ページに案内したり、作家同士で交流が図れたりするようにもなっている。

 

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リアル店舗との連動が差別化の鍵

 

日本では、Etsyに続けと、tetoteminneCreemaiichiなど、様々なハンドメイドのオンラインショップが出現しており、競争が激化している状況だ。

 

そんな中、各ショップはユーザー獲得に向け、オフラインの場を活かした集客に力を入れている。tetoteは、ハンドメイドのイベントで、ユーザーの作品を集めたブースを出展している。minneは、百貨店と連携し、期間限定の実店舗をオープンする予定だ。ハンドメイドECでは、実店舗を持たないサイトがほとんどであるため、一時的にリアルの場を作り、O2Oに取り組むショップが増えている。

 

一方で、「ハンズ・ギャラリー・マーケット」は、リアル店舗を持つことが強みだ。今後は、O2Oの取り組みとして、東急ハンズやハンズビーなどの実店舗と連動したイベントを実施する予定だ。この実店舗の活用こそが、「ハンズ・ギャラリー・マーケット」の差別化の鍵となる。

 

まとめ

 

ハンドメイドECのほとんどが実店舗を持たない。リアル店舗から生まれた「ハンズ・ギャラリー・マーケット」は、ハンドメイドECとO2Oがミックスされた新たなビジネスモデルと言える。今後、東急ハンズがどのようにハンズ・ギャラリー・マーケットとリアル店舗を連動させ、ユーザー獲得を図るのか、具体的な取り組みに注目したい。

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2月上旬、米国でTinyviewのモバイルサイトとiPhoneアプリがアップデートした。Tinyviewは、巨大なショッピングモールがスマホサイズに収まったようなものだ。昨年8月にローンチされ、わずか半年で急速に機能を拡大していった。今回は、モバイルユーザーにとって非常に便利なサービス「Tinyview」を紹介しよう。

 

スマホサイズのバーチャルショッピングモールTinyview

 

Tinyviewは、1つのアプリ又はモバイルサイトで50のネットショップの商品を購入できる便利なモバイル・コマースだ。取り扱うショップは、Amazonやebay、NikeやCoach、Forever21など、多岐にわたる。

 

昨今、多くの小売業がオンラインショップを持つようになったが、消費者は各ショップで商品購入の度に、決済手続きをしなければいけない状況にあった。Tinyviewはそのような不便な状況を解決するため、1つのサイトでまとめて決済できるサービスを開始した。

 

Tinyviewでは、単に商品を購入するだけでなく、気に入った商品をリスト保存し、Facebookを通して、家族や友人と共有する事もできる。つまり、今流行のソーシャル・ショッピング機能だ。これにより、親しい人からの最も説得力がある買い物情報が共有されるため、さらなる顧客拡大が期待できる。

 

iPhoneアプリには、便利なオートフィル機能が追加

 

今回、Tinyviewはいくつかのアップデートを実施したが、一番の注目はiPhoneアプリにオートフィル機能が追加された点だ。オートフィル機能とは、ユーザーがあらかじめTinyviewのアプリ上でカード情報や配送先を保存しておくことで、決済画面ではボタン1つで必要な情報が自動入力される機能だ。まさに、これまでなかった画期的な機能である。

 

ニッチなショップでも認知度を高められる仕掛け

 

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Tinyviewには50のネットショップの中で人気の商品だけが表示される。「Trendingコーナー」というセクションがある。Tinyview のユーザーの9割がここを訪れ、トレンドをチェックしている。したがって、あまり知られていないニッチなショップでも、このコーナーに1つでも商品が掲載されると、一気にショップの知名度をあげることができる。

 

まとめ

 

たった半年あまりで50のネットショップがTinyviewを使用しているのは驚異的だ。今は大手の小売店ばかりが目立つが、今後さらに小規模の小売店も含め、店舗数は充実していくだろう。また、日本でのローンチは不明だが、このサービスへの消費者ニーズはかなり高いのは容易に想像できる。今後の展開に注目したい。

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