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世界最大規模のEコマース、米アマゾンは、これまで多くの顧客の購買データを保有しながらも、活用せずにいた。同社が有する消費者の購買履歴というビッグデータは、ネット広告業界においては宝の山のようなものだ。今回は、顧客データという強力な武器を持つアマゾンの広告ビジネスに参入について紹介しよう。

 

アマゾンの持つ顧客データの威力

 

Constellation ResearchのRay Wangは、今のアマゾンをEコマースの企業ではなく、マトリクスコマースの企業だと言っている。マトリクスとは、「様々なものを生み出す母体」を意味する。長年蓄積して来たビッグデータをもとに、Eコマースのオペレーションを他方向に展開できる可能性を秘めているためだ。

 

グーグルは検索と無料アプリケーションを、フェイスブックは会員データを元に広告事業を展開している。一方で、アマゾンはクラウドインフラの開発により、15年前から消費者の購買行動をデータ化し、蓄積して来た。これらの会員情報や購買履歴、サイト内での顧客動向などのデータは、他社のそれとは全く質が異なる。彼らに取って、アマゾンの膨大なビッグデータは脅威そのものなのだ。

 

新たな高精度の広告プラットフォームの開発

 

アマゾンは、2010年から密かに広告事業を開始し、2012年末に新たな広告プラットフォームを開発した。アマゾンユーザーの購買パターンを分析し、ユーザーが他サイトに訪れた際に、ターゲット広告をリアルタイムに表示するというものだ。このプラットフォームには2つの強みがある。

 

1.   ビッグデータを活用した精度の高い広告

アマゾンが保有する膨大なデータからは、消費者が何に興味を持ち、何にお金を支払うかを把握できる。そのため、このビッグデータを活用することで、他社には真似をすることの出来ないほど精度の高い広告を打つことが可能だ。

 

2.   独自のリアルタイム入札システム

グーグルやフェイスブックは、広告枠の取引プロセスが複雑で、仲介業者が広告依頼者との間に入っている事が多い。アマゾンは自社システムを独自開発することで、企業が仲介業者を介することなく自分で広告投稿することを可能にした。これにより、広告を掲載したい企業の手間とコストを大幅カットすることができる。

 

アマゾンは、すでにこのサービスを一部の大口広告主へ提供を開始している。今後、さらにシステムの導入先を増やしていく計画である。

 

ネット小売より利益率のいい広告ビジネス

 

アナリストによると、アマゾンのネット小売の利益率が5%以下であるのに対し、ネット広告は20〜30%もの利益率がある。今年のアマゾンのネット広告の売上は10億ドル(約990億円)になる見通しだ。今の時点では、全売上の約1.7%に過ぎないが、この割合を増やせば、大きな収入源になることは明らかだ。利益率の大きい広告ビジネスを展開することで、同社はコマース部門をさらに強化することが可能になるだろう。

 

まとめ

 

質の高いビッグデータを抱えるアマゾンは、広告ビジネスで十分戦っていける。アマゾンの広告ビジネス参入で、ネット広告市場はますます競争が激化するだろう。日本でアマゾンの広告サービスが展開される日も近いはずだ。今後のアマゾンの動向に注目したい。